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Channel: 着物でオペラ in ロンドン
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ヨナス・カウフマンの冬の旅(シューベルト) @ROH

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<6th Apr Sun>

今週末3度目の更新になりますが、今夜のヨナス・カウフマンも早速書けたのでアップしちゃいましょう。
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今日の日曜日、珍しくROHでリサイタルがあり、超人気テノールのヨナス・カウフマンシューベルトの歌曲「冬の旅」を歌ってくれました。


3、4年前、彼が600席足らずのこじんまりしたウィグモア・ホールで水車小屋の娘を歌った時は、当然大変な切符

争奪戦で、そのために100ポンドも出してサポート・フレンズになったのに買えなかったことがあり(3枚頂戴と欲張ったのがまずかったんでしょうが)、今回はそれを踏まえ、「よし、じゃあ今度はロイヤルオペラハウスでたくさんの人に聞かせてあげようじゃないか」、と善処して下さったでしょう。ありがとうございます、おかげでやっと生でカウフマンのシューベルト歌曲を聴かせて頂くことができました。


聴けなかったその水車小屋の娘をラジオで何度か聴いたのですが、そのメリハリのある熱い歌い方から、きっと派手な身振り手振り&顔芸アクション付きなんだろうと想像していたのですが、今日のはそれからは全く程遠い直立不動。それでも、声の変化だけで色んなカラーを出せるのはさすが。


表情もほとんど変わらないのに、目チカラだけで演技してたのも凄い。近くの席から更に時々双眼鏡で凝視したのですが、最後の何分から遠くを見つめる瞳が(涙は出てないけど)情熱さと虚無感の両方を表現してたのも感激。


   


最後の終わり方が特に素晴らしくて、歌い終わってから随分長い間カウフマンは宙を見つめたまま動かず、余韻に浸る観客は誰もフライングして拍手する人もいなくて、静寂の中で一体感を味わうことができました。最後の拍手も、普通のコンサートのようなやんやんやではなく、落ち着いた感動でした。


こんな複雑な心理を細やかな歌い方で表現する歌曲をこんな大きな所でやるべきではないと思ってたのですが、静かに歌う部分も聞き漏らすものかと息を潜めて集中するせいか、いつもよりうんと小さい空間に見えました。歌と歌の間に静寂があるのですが、空腹の私は「お腹がぐ~っと鳴ったら恥ずかしいなあ」、とも思ったりして。


冬の旅は、失恋した若者が死を願望してさすらいの旅に出るガックリという内容で、誰が歌っても思い切り暗いわけですが、それでも歌い手が違うと別の曲のように聞こえるのが名曲なる所以で、私にとってイメージ強いのはイアン・ボストリッジですが、異様な風貌な上にしかめ面して口を歪める青白博士の細い声は狂気じみてて、「あ、こいつはこのまま自殺しちゃうんだろうな」、と思わせるキャラなのに対し、太くて重い声のカウフマンは「一時的に悲観的になってるけど本来は普通の常識を持つまっとうな大人で、そのうち立ち直るだろう」という感じかしら。

どちらが好きかと言われると、やっぱり長年イメージが定着してるイアン博士の方かな? 来年1月12日にバービカンで、久し振りにイアン博士の冬の旅を聴けるので(しかも伴奏がトーマス・アデス)、比較するためにも余計に楽しみになりました。


        


でも、大袈裟にしないで淡々と、でも一つ一つの言葉を大切にして正統的に歌い上げるカウフマンの歌唱力は素晴らしかったです。字幕が出たのもありがたかったし、背景はもうすぐ始まるトラヴィアータでヴィオレッタが死ぬ最後のシーンのセットを使ったのも雰囲気ぴったりでした。


それにしても、この手のコンサートをここでもっとやって頂きたいものです。10年ちょっと前は年に何度かやってたこともあり、オケ付きでゲオルギュー、ピアノ伴奏だけでキリテカナワ、ブリン・ターフェルとか聴きました。値段が安いのもありがたくて、今日のカウフマンなんて、舞台横で僅か4ポンドでしたもんね。そんなに安くしてくれなくてもいいので、ここを埋められる人気歌手を引っ張ってきて、どんどんやって下さい。




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