<25th June Sun>
昨日はお昼にROH「ミトリダーテ」のリハーサル、夜はウィグモア・ホールのバルトリとジャルスキーのコンサート、その間にジムで一泳ぎという充実した土曜日でしたが、今日は溜まってるブログ記事を書き溜めて、明日からの仕事が忙しい週に備えます。
----------------------------------------------
小さい写真はクリックで拡大します。
火災報知機が鳴って途中で避難させられた非常事態を始め、呪われていたとしか言えない今回のROHの愛の妙薬L'elisir d'amore。 9回と公演数も多いので切符の売れ行きは悪くダンピングもされたけど、色々な事件があって面白い展開になり、こんなことなら、舞台横の席が直前に放出されたこともあり、全部行けば良かったと思ったくらい。結局、リハーサルを含むと5回行ったので、いくら好きなオペラとは言え充分でしょうけど・・。
当初の予定は、ロランド・ヴィラゾンとプリティ・イェンデで4回、イヴァン・マグリとイェンデで1回、アラーニャ夫妻で4回だったのですが、特にテノールに代役が入り乱れ、それもパフォーマンス途中での交代が2回、更に最後の最後で代役が途中で怪我してヨロヨロになりながらも歌ったという珍しいオマケも。代役の選び方にも疑問が残り、前半のヴィラゾンの代役の若いリパリット・アヴェティスヤンが歌も演技も抜群だったのでこの以降も代役が必要であれば彼にすればよかったのに、なぜあんなことになったのか理解に苦しみます。もし、彼を出すつもりだったのに彼も倒れたのであれば、これは本当に呪いだわ
で、結局テノール5人とソプラノ3人。下線の人はクリックでROHアーチスト紹介頁に飛びます。
- Adina Pretty Yende/Aleksandra Kurzak/Jennifer Davis
Nemorino Liparit Avetisyan/Roberto Alagna/Atalla Ayan /Ioan Hotea/Ivan Magrì
Dulcamara Alex Esposito
- Belcore Paolo Bordogna/Adam Plachetka
既にレポートしてる前半は→こちらでご覧下さいですが、後半のアラーニャ予定だった日はざっとこんな感じ。
6月13日
アラーニャとクルチャク夫妻の初日でしたが、こんなに楽しくない愛の妙薬は初めて。 アラーニャの老けぶりは長年のファンとしては目を覆いたくなるほどで(FB投稿でしょっちゅう家族写真見てるんですけどね)、いらくなんでもこの役はもう無理でしょう。4年前に二人が結婚するキッカケとなった時は50歳でも若々しくて素敵だったのに・・(→こちら)。それでも歌と演技でカバーできれば良いけれど、声は乾いてて、「人知れぬ涙」は裏声で誤魔化したし、演技で一生懸命おどけるんだけど全て宙に浮いて、目が笑ってないせいか全然面白くない。風邪ひいてたクルチャクのことが心配だったのかもしれないけど、長年好きだった人の衰えぶりを目の当たりにするのは辛い。
インターバルでアナウンスの人が出てきた時はてっきりアラーニャのことだと思ったけど、そうではなく、「クルチャクが風邪ひいてるけど続けて歌います」とのことで、彼女は気丈に演じてはくれたけど、たしかにいつもより声に艶がなかった。この二人はもうすぐ始まるトゥーランドットで共演するので楽しみなのだけど、彼女は風邪さえ治れば大丈夫としてもアラーニャはどうかしら?
写真だと若々しく見えるんですけどねえ・・
----------------------------------------------
6月16日
私は行かなかったので、写真はPrimroseさんからの拝借ですが、アラーニャは初日よりも悪化したようで貧しい声だったそうです。で、後半は演技だけして、歌は違う人が舞台袖で歌うという、時々起こる変形スタイルになり、歌は他の日にトラヴィアータのアルフレードやってるブラジル人テノールのアタラ・アヤンを引っ張ってきて無事終了。 因みに、アラーニャの演技は初日から判断すると自分勝手にやってようで、何度も同じような動きで見飽きてる私は嬉しかったですが、リハーサル不足だったし、先回のも覚えてなかったんでしょうか。
クルチャクは最初から降板して、代役はここの若手アーチストのジェニファー・ディヴィス。
アヤンの椿姫、私は14日に見たのですが、声は良いけど初日で緊張してたのか、音程が外れ気味だったのが残念。その時のカーテンコールです。
--------------------------------------
6月19日
当然キャンセルすると思われたアラーニャが登場。 滑り出しは初日程度だったけど、すぐに声がカスカスになって続けるのは不可能と誰もがわかる中、前半の半分でえらく長い間幕が降りてた後、ルーマニア人の若いテノールが登場。「こういうこともあろうかと呼んでおいて、しっかり練習させましたから」、と言われた27歳のイオアン・ホテアは、グリゴーロを小さくした感じで、シャープな動きと甘さはないけど輪郭のはっきりした声で一気に若返ったネモリーノ。音程が外れ気味だったのだけが残念だけど、アディーナ続投のジェニファーとのケミストリーは今回のチームの中でベストで、ドラマとしてはあるべき姿に。 でも、ネモリーノはヒゲ無しでやってよね。
--------------------------------------
6月22日
前夜に代役がイヴァン・マグリとわかった時の私のショックと言ったら・・・。一回だけ最初からキャストされて歌ってるので充分あり得る人選なんだけど、なんせ4月にWigmore Hallのリサイタルで「うわーっ、醜いダミ声、早く終わってくで~」と苦しんだくらいで(→こちら)、彼の出る日の切符は(リサイタル前に切符買った)苦労してやっと始末したのに・・。 と、嫌々行ったんだけど(着物イベントだったのでね)、これが意外に良くて、声量もあるし、大きな場所で聴くべき人なのね。おっさんだけど遠目には可愛く見えるかもしれないし、ダミ声は好みではないけど、少なくとも彼が出るなら行くのを止めようという気持ちは消えたかな。 アディナのジェニファー嬢はやる度に上手になって、これならアラーニャ夫婦なしでも文句言う人はいないだろうとROH側も安心したことでしょう。
しかし、もう少しで無事終了という時になって、また異常に長いインターバルに。 「ったく、今度は一体なにが起こったんだろう。又別のテノールに代わったらそれはそれで私はハッピーだけど」、と楽しみになってきたら、「マグリはパフォーマンス中に怪我しましたが、頑張って続けます」というアナウンス(毎回忙しかったね、アナウンスの女性)。どこが怪我したのか言わなかったので、そーっと歩いてる様子から足かなと思ったけど、しばらくして胸とわき腹の辺りを強く押さえて座り込んでしまい凄く痛そうに数秒間声がほとんど出なくなったので、肋骨にヒビでも入ったのでしょうか? そう言えば、インターバル前の後半におとぼけアクションで笑わせる場面で動きが鈍かったので、あの時既に苦しかったのかな、おそらく干し草の塊を持ち上げた時に起こったんでしょう。
皆が固唾を呑んで見守る中、私は始めて双眼鏡を取り出して苦しそうな表情をしっかり観察。 立ってるのもしんどいらしく胸を押さえながら椅子に座ってしまうことが多く、他の人たちもそれに合わせてアクションを変更。彼の強みである声量で大受けする筈だった「人知れぬ涙」が抑え気味にならざるを得なかったのは残念だけど、必死で頑張る姿は感動的でした。
他の人はどうだったかと言うと、図体のでかいベルコーレ軍曹は爆笑だった前半のバリトンに比べるとおとなしかったですが、その分インチキ医師のエスポジートが俄然後半になっておちゃらけ度を増し、それでもシニカルな雰囲気だったけど、芸達者の百面相で笑わせてくれました
と言うことで、前半の予想外の素晴らしさと後半の崩れっぷりが対照的で、ほんと、何が起こるかわからないオペラの醍醐味を味わうことができました。アラーニャを出待ちしようと着物で行った日もあるのに逃げられたのはがっかりでしたが。