2月6日はエフゲニー・キーシンのリサイタル(バービカンのサイト→こちら)。 折角ですから、着物で行ったら(→こちら)、ブレンデル先生をお見掛けしました。
ほぼ毎年やってくれますが、私にとってはバービカン・シリーズの中でハイライトの一つ。上級メンバー購入で首尾よく真っ先に狙い、今年もかぶりつきの鍵盤寄りで横顔と手がばっちり見えるベスト席を確保。 下から見上げるこの席は写真を撮るのが難しいのが欠点で、今回は特にこれほど嬉しそうな顔を初めて観たのにろくな写真が撮れなくて残念でしたが、彼の唸り声もよく聞えて臨場感あり(これがないとキーシンを聴いた気にならない程)。
天才キーシンと言えども毎回凄く素晴らしいわけではなく、出来が良し悪しはカーテンコールの表情にもろに出る彼、ぶすっと空ろな目の時もこれまで何度かありましたが、今回は満面の笑みの示す通り本人も満足のいく演奏だったようで、観客も大喜び。 「これぞキーシンの音!」と私も大満足。奇妙なアクシデントで中断するというハプニングもあり、長く記憶に残るに違いないリサイタルでした。
アンコールは3曲:
シューマンの「トロイメライ」
ドビュッシーの「子供の領分 ゴリウォーグのケークウォーク」
ショパンのワルツ「華麗なる円舞曲 Op34-1」
ショパンのノクターンで静かに始まり、「よし、この音なら今日はは好調だ」、とわかったものの、「でも、こんな誰でも弾ける簡単なやつじゃなくて、スケルツォとかポロネーズで力強くガンガン弾いて欲しいわあ」、とちょっとがっかり(去年はいきなりベートーベンのハンマークラヴィアだったぞ(→こちら)。
だからこそ、次のシューマンがより一層引き立ってわけですが、華やかで力強い超絶技巧が必要なソナタはキーシン向けで、この夜のハイライトとなりました。さるテノールのシューマン歌曲のコンサートも凄くよかったし、ますますシューマンに注目しそうだわ。
「後半はドビュッシーかあ・・。だらーっとしてキーシンには合わないわよね。寝ちゃうかも」、と友人たちと言い合っていたのですが、寝てなんかいられない大変なことになりました。
後半が始まって暫くしたらピーピーという音が鳴り響き始めたんです。後で聞いたところ、誰かのペースメーカーが原因だったそうで、心臓発作を起した人がいたのかもしれません。最前列の私が前から聞えたので、ペースメーカーが音響設備に反応したのではないかしら。
曲の合間に2回、「音を消せ~っ、」、と叫ぶ男性の苛立った声とピーピーと鳴り続ける不快な音、顔を見合わせてそわそわする観客。
そんな状況の中で、なんと、一人平然となにもなかったように弾き続けるキーシン やっぱり普通じゃない。
やがて曲の途中で係員が舞台に登場して(その時には音は止まってたのに)演奏中のキーシンを肩を叩いてストップするように言った時、彼は目を見開いて「Why?」、と言いながら驚いた表情。 やり続けた彼の方が驚きでしたけどね。説明を受けたキーシンが舞台裏に引っ込み、「メディカルな緊急事態が発生しました」とのアナウンスがあった途端に、出て行けとは言われてないのに外に出た人が結構いました。
まもなくして演奏が再開され、予定通り数曲のドビュッシーでしたが、そんなことがなくても決して寝てはしまわないだろうという力強くてキーシンにぴったりのしっかりした曲がほとんどで、ドビュッシーのイメージが変わりました。最後の短いスクリャービンをはドビュッシーの続きかと思ったほど。
アンコールはお馴染みの曲ばかりを弾いてくれて(彼がロシア語訛りで作曲家と曲を叫んでくれるのもいつものこと)、全てキーシンらしい音でうっとり。 あの騒音のせいで途中で中止にならなくて本当によかった・・。
ちっとも変わらなく若々しいキーシンですが、月日の流れを感じさせることもあり、以前いつもいらしてたお母様と年配の先生をここ数年お見掛けしてません。代わりに今回初めて、一昨年結婚した幼馴染の奥さんと彼女の連れ子3人が客席にいました。まさかキーシンが結婚するなんて思わなかったけど、美形揃いの素敵な家族が出来てよかったです。
尚、これまでのキーシンのコンサート記事は一覧にまとめてあります(→こちら)。
ロンドンでの次のキーシンは6月29日のWigmore Hallですが(→こちら)、チャリティで値段が馬鹿高い上に一般販売ではろくな席が残ってなかったので、私は行きません。売り切れ。
因みにこのバービカンのかぶりつきは48ポンドでした(一番高いのは65ポンド)。