<16th July Mon>
今日から外国のオリンピック選手が到着しはじめましたが、「なーにー、ロンドン、どえらい寒いがね~」と往生こいてることでしょう。朝晩はコートとスカーフ要りますもんね。
でも、暑過ぎると地下鉄に冷房がほとんど付いてないのがバレてしまい、不快極まりないだけじゃなくて、ロンドンの恥をさらすことになりますから、涼しい方が無難かも。
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大スペクタクルの話題の新プロダクションであるベルリオーズのトロイヤ人Les Troyens、6月22日のリハーサルを3幕からのみupperslipで上の横から見下ろし、7月1日はストールサークルの舞台袖から全5幕を観ました。
フランス語ですが、どんなお話かを2行で説明すると、
木馬で有名なトロイ戦争から逃れたトロイの勇将エネアスが、立ち寄ったカルタゴで女王ディドと恋に落ちるが、ローマ建国という使命を背負ったエネアスがカルタゴを去るとディドは絶望して自害
初日にも行きたかったけど平日だったので休みが取れず(ワーグナー並に長いので5時スタートというサラリーマン泣かせ)、代わりにヒマ人トーチャンに行ってもらったところ、マクヴィッカー率いるプロダクションチームへの拍手が一番大きかったとのこと。
たしかに、わかりやすい演出で、前半のトロイ陥落の木馬ならぬメタルの木馬が象徴するグレーで暗~い場面と後半のカルタゴの暖かみのある土色のセットとカラフルな衣装の対照も見事。リハーサルではカルタゴ場面の幕が上がった時に拍手が起こりました。「ほっ、よかった、ずっとあんなダークでヘビーじゃなくて」という安堵でしょう。
David McVicar – Director
Es Devlin – Set designs
Moritz Junge – Costume designs
Wolfgang Göbbel – Lighting design
Andrew George – Choreography
Chorèbe – Fabio Capitanucci
Enée – Bryan Hymel
Didon – Eva-Maria Westbroek
Narbal – Brindley Sherratt
Anna – Hanna Hipp
Ascagne – Barbara Senator
Priam – Robert Lloyd
Hécube – Pamela Helen Stephen
Ghost of Hector – Jihoon Kim
Panthée – Ashley Holland
Hélénus – Ji Hyun Kim
Greek Captain – Lukas Jakobski
Trojan Soldier – Daniel Grice
Iopas – Ji-Min Park
First Soldier – Adrian Clarke
Second Soldier – Jeremy White
Hylas – Ed Lyon
リハーサルはupperslipで横の上から見下ろして全体像がよく掴めたし、7月1日はストールサークルの舞台横から臨場感を味わえたのですが、目玉のメタル・ホースはやはりまじかで観ると凄い迫力で、見切れ席だったので木馬が舞台の奥にいる間は鼻の先しか見えませんでしたが、最後に前に出てくると目の前で見上げるわけですから、オ~ッ!という感じです(7月5日撮影のストリーミングでは馬が前に出てこなかったけど)。
このオペラ、ベルリオーズが心血注いだ傑作なのに、正味4時間と長大なので上演の機会は少なくて(やっても2回に分けられたり)、ベルリオーズ生存中にはいっぺんに上演されたことがなかったのを、1957年にはじめてフル舞台で一気に上演したのがROHだったそうですから、今回も当然意地にでも一気上演するしかないですよね。
やる方は大変でしょうが、通して聴くとワーグナー並の壮大な作品だということが実感できます。一番負担が掛かるのが指揮者でしょうが、いつもエネルギッシュで疲れを見せないパッパーノ大将もさすがに疲労困憊して、場面変換の数分間ぐったりと放心状態でした。その珍しい表情を双眼鏡でよく見ようとしたら彼と目が合ってしまい気まずい瞬間もありました
お馴染みのギリシャ神話ですが、戦いがテーマの前半のトロイは1850年あたりに設定されていて、「俺は時代の読み替えは嫌いだ」と言ってるマクヴィッカーだけど今回はベルリオーズに敬意を評してこのオペラが初演されたナポレオン3世時代にしたとのことです。
後半のカルタゴはアフリカ風建物と民俗調衣装なので時代を特定する必要がなく、南国の暖かい空気の中でトロイの勇将エネアスも軍服を脱ぎ捨ててチュニック姿となり、カルタゴの女王ディドとの愛欲に溺れるのですが、それに相応しい官能的で甘美な音楽を素直な演出でロマンチックに描いてくれます。
かなり前にバービカンのコンサート形式で後半だけ聴いたことがあり、コリン・デーヴィス指揮のLSOとベン・ヘップナーは覚えてるけど、ネットで検索したところ、2000年12月のことでした。
そうそう、オルガ・ボロディナがキャンセルしてがっかりしたんだったわ。そのコンサートの4枚組CDはよく売れてLSO録音販売を軌道に乗せ、グラミー賞も受賞したそうだし、トビー君を見初めたのもこれかもだし、その頃はまだしゃきっとしてたベン・ヘップナーもなかなか良かった記憶もあるので、そのうち聴いてみよう。私は大規模で妖艶なフレンチ・グランドオペラは好きだから。
でも、そんな古いの聴かなくても、ちょっと待てばトロイヤ人はちょっとしたブームになるでしょうね。このマクヴィッカー版はこれからウィーン、ミラノ、サンフランシスコと回るし、来シーズンはNYメトでも。それに、これが一番やりたいと言ってたアラーニャがマルセイユで夢を叶えます(おそらくコンサート形式でしょうけど)。そうだ、まず、この日曜日にプロムスで今回と同じメンバーでコンサートがあります。
対照的な役柄の女性二人の素晴らしさが際立ちました
トロイの王女カッサンドラのアナ・カテリーナ・アントナッチ、久し振りに見たら中年になってましたが、予知能力の彼女が「木馬をトロイに入れちゃ駄目!」と言っても誰にも信じてもらえない苦悩を顔のシワと黒髪と黒い衣装で床を這いつくばって大熱演し、相変わらずの立派な歌唱で前半のトロイ場面は彼女の独壇場。
小柄で痩せててカラスみたいに真っ黒でなアントナッチとは対照的に、カルタゴ女王ディドは長身でふくよかでセクシーな金髪カールの若いオランダ人エヴァ・マリア・ウエストブルック。
彼女がオランダでカッサンドラ役をやった映像も見ましたが、華やかな美人で声も優しいウエストブルックはディドの方が合ってると思うし、元々はメゾソプラノのパートですから(リハーサルにはこの役を歌ったことがあるメゾのスーザン・グレアムも来てました)、無理して高音を張りあげる必要もないわけで、まろやかが強調されてとても心地良い声でした。
ウエストブルックはROHにはよく出てくれるので結構な回数聴いてて、何をやっても上手なんですが、今回がベストではないかしら? 「ウエストブルックって誰?」、という時から聴いてた私には、ついにこんな大作の主役を堂々と歌い演じて大歌手に成長したと思うと感慨深いし、今回の功労者も彼女です。
女性に関して言えば、ディドの妹役のハナハナ・ヒップはROH若手アーチストの一年生なのにすでにこんな役をこなせるのは優秀(オテロのイアーゴ妻もこの人)。エネアスの息子役のバーバラ・セネターも爽やかなズボン少年役でした。
なんと言っても、今回の一番のアトラクションだったヨナス・カウフマンが降りてしまったのがとても残念。代役のブライアン・ハイメルはカルメンで×、ルサルカで○だったのですが、今回は△ってとこでしょうか。安定度が低いのか、リハーサルでは叫んでるだけのようでひどかったけど、本番ではかなり回復、でも時折ぐらぐら・・・。
救いはビジュアル面で、頬ヒゲが似合う精悍な顔は戦士にぴったりだし、なによりも今回はタテヨコでかいウエストブルックと並んでもチンケに見えなかったのがカウフマンより勝る点でしょう。かろうじての身長差だけど、意外に小柄なカウフマンだったら貧相に見えてしまったでしょうから。
カッサンドラの婚約者もカルタゴの大臣も上手だったけど、テノール好みの私が楽しんだのは、カルタゴの詩人イオパスのジ・ミン・パークと船員役のエド・リオン。二人とも一曲づつしか歌わないけど、それぞれ甘くて美しいアリアで、うっとり。特にROH若手アーチスト時代から応援してるパーク君のリリカルな美声!
私が行かなかった7月5日のパフォーマンスが10月までオンデマンドのストリーミングで観られます(→こちら )。但し、ヨーロッパだけ。
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