<18th December Sun>
土曜日は友人の訪問で久し振りにウィンブルドンに行きましたが、同じロンドン郊外と云っても我が家の周辺とはえらく違う素敵な街で、大邸宅が立ち並び、道行く人はほとんど白人。でも、立派なタイ寺院もありました。
今年のオペラ鑑賞ももう少しで終わりですが、ちょっと前に観たオペラのことを今更ながら記録しておきます。
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ちょっと前になりますが、English National Operaのオペラを2つ観ました。全て英語にしてしまうENOは嫌いですが、11月15日に観たチャイコフスキーのエフゲニー・オネーギン(本来はロシア語)と12月1日のラモーのCastor and Pollux(フランス語)、色んな意味で対照的だったので、まとめて書いておきます。(オネーギンの方は、写真を撮ると係から叱られそうな席だったので、カーテンコール写真はゼロ)
どんなオペラかというと、
オネーギンはプーシキンの韻文が題材で、ニヒルなキザ男オネーギンが田舎の乙女タチアナに憧れられてラブレターをもらった時は拒絶するのに、数年後に洗練された人妻になった彼女に再会して恋に落ち、彼の方が求愛するが、貞淑なタチアナに拒まれるというザマーミロだけど共感を覚えるお話。
C&Pはギリシャ神話に出てくるゼウスの息子である双子の兄弟の一人の女性を巡る争いと兄弟愛の物語で、例によって神様の気まぐれだけで事が運ぶアホらしさ。
割引切符
安くて舞台から近い席のないENO、ちゃんとした値段で買うのはアホらしいので、色んな形でオファーされるダンピング切符を狙うんですが、
オネーギンは、私の常套手段である、レスター・スクエアのtktsという主にミュージカルの当日の売れ残りを売る掘っ立て小屋に夕方行ったら、タッチの差でお目当てのストール席は売れてしまったらしいですが、一段上のドレス・サークルの83ポンドの席が手数料込みで25ポンドで買えて、隅っこのほうはかなり舞台に近いので充分満足。
C&Pはうんと売れ残ってたので、ENOのサイトで叩き売りとなり、ドレスサークルが全て10ポンド、ストールは20ポンド(どちらも一番高い席は92ポンド)。珍しいフレンチ・バロック、いつものように当日買いに走るつもりだったけど、ありがたいオファーに感謝。超マイナーなオペラのヘンテコリンなプロダクションでも、ここまで安くなるとあっという間に売れ切れたようで、まごついてるうちに10ポンドの席(本当は92ポンド)はなくなってしまったけど、前から4列目の83ポンドのストール席を20ポンドで買うことができてホクホク。
オネーギンの席から C&Pの席から
Eugene Onegin (Pyotr Tchaikovsky)
director Deborah Warner
conductor Edsard Gardner
Eugene Onegin Audun Iversen
Tatyana Amanda Echalaz
Lensky Toby Spence
Tatyana's mother Diana Mongague
Castor and Pollux ( Jean-Philippe Rameau)
director Barrie Kosky
designer Katrin lea Tag
conductor Christian Curnyn
Castor Allan Clayton
Pollux Roderick Williams
Telaira Sophie Bevan
お目当て
嫌いなENOに行ったのは、それなりの理由があるわけで、
オネーギンはもちろん愛するトビー君を聴くためだし、
C&Pは、生で聴いたことのないラモーを聴きたかったのと、この2年くらい注目してるアラン・クレイトン君をはじめて主役で聴けること、という私らしいテノール狙い。
プロダクション
私には嫌われても頑張ってるENO,両方とも新プロダクションでしたが、
オネーギンは今時こんな設定に忠実なのも珍しいというくらい、あまりにもまともな代物で、たとえば舞踏会シーンでちゃんとそれらしいダンスをするプロダクションに遭遇したことがないので、ある意味新鮮でしたが、やっぱり斬新さがなくてつまらない。でも、とても素敵だったENOのBブリテンのベニスに死す(→こちら )と同じデボラ・ウォーナー演出で、決闘シーンの光る床は幻想的で美しかった。
C&Pは、なにもここまで崩さなくてもいいのに、と眉をしかめたくエロい代物で、ウィットには富んでるけど、典雅なバロックの雰囲気は全くせず。
写真を見て頂くのが手っ取り早いですが、写真には出てこない全裸なシーンもありました。それは知っていましたが、裸になるのは女性だと思っていたのに、数人のヌードのほとんどは男性で、それもちょっとだけじゃなくてかなり長い間ゆっくりぶらぶら(?!)歩くので、客席も呆然。もちろんその間は双眼鏡は使えなかったし・・・。
このプロダクションを一言で表わすとすると、パンツを脱ぐまくり。たくさん重ねて履いてるパンツを一枚一枚歌いながら脱ぐんですが、深い意味があるのかしら?
しかし、どちらも両極端で、どちらもその間くらいがちょうど良いのにと思わないではないけれど、ENO側はこうして対照的なのを続けてやりたかったのだろうし、それは功を奏して面白い対比でした。
二人のテノール
オネーギンのトビー君は主役ではないので聞かせどころは一箇所しかないですが、 オネーギンとの決闘を前にして切なく歌う有名なクーダクーダというアリアを絶好調のトビー君は清々しい美声で思い入れたっぷりに歌ってくれて、そのためだけに行った甲斐がありました
C&Pのクレイトン君は病気だったようで、途中で「今日は最初から具合悪かったところ、更に悪化したけど最後まで歌います。だけど長いアリアは無理ですのでご了承を」、というアナウンスが入り、一番良いところをカットされてがっかり
それでも歌う場面は多かったし、充分その実力は発揮できたのではないかしら。無理して出てくれありがとう。トビー君に似たタイプのリリカルな声の上手なテノール君がまた一人イギリスに登場してとてもハッピーですが、見る度に丸くなってるクレイトン君、ついに小デブと言ってもいいくらいになってしまったのは悲しいわ。はじめて見たときはほっそりとしてハンサムな童顔だったのに、今回は豚になった上にむさくるしいヒゲを生やして、一気に老けたじゃん。立派に若々しさを保ってるトビー君、貴方の後継者とも言えるこの坊やに忠告してあげて下さいよお。
他の人たち
オネーギンのAudun Iversen はルックスも歌もまあまあだけど、前半と後半では変身しなくちゃいけないのにずっと同じなのはペケ。タチアナのAmanda Echalazは力強い声なので乙女らしいか弱さが必要なこの役には不向き。エレクトラとかでもできそうなのに、ENOで都合よく使われるのは不幸かも。指揮者のエドワード・ガードナーはさすがENOの音楽監督で文句なし。
C&Pは、指揮者のせいではないだろうけど、いつものENOオケの音しかせず、バロック音楽らしさが感じられなかったのがは残念。なんでも器用にこなす中堅バリトンのRウィリアムスは、迫力には欠けるけど手堅く歌い演じて期待通り。ソフィー・ビーヴァンも上出来で、ENOに縛られては勿体無い力をつけたみたい。
英語にされてどうだったかと言うと、
ロシア語で耳に馴染んでるオネーギンを英語で聞くのは、覚悟はしてたけど、やっぱり我慢できないくらい不快で、クーダ♪クーダ♪という出だしがno more no moreにされてしまったのはヘドが出ました
C&Pは、全編フランス語だったら本来の良さがわかっていいのになあと思ってはいましたが、なんせ一度も聴いたことのないオペラなのでそう気にならず。
ENOはこれからも何か特別な理由がある、或いは元が英語のオペラの時だけ、良い席をダンピングで買えた場合にだけ行くことになるでしょう。