<28th Dec Sat>
行かなきゃ行かなきゃとずっと思ってた大英博物館の春画展にやっと行きました。あと1週間で終わりですが、題材のせいかあまり人気がないようで、当日でも楽に切符買えました。質量ともに予想を上回る素晴らしさで、グロテスクな部分はすくに目に入らなくなり、ほとんどが着衣画なので私は特に着物の色柄に注目しましたが、裾が乱れたら乱れたで着物って絵になるわあ。気恥ずかしくて着物では行けないと思ってましたが、これなら着物で行って実物を皆さんに見せてあげればよかったかな。浮世絵の良さを又見直すことができた芸術的な作品も多く、とても人間的だし、このままの形で是非あちこちで展示して頂きたいものです。特に日本で。
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12月16日から1月9日まで10回やってるカルメンは2チームあるのですが、明らさめに優劣付いてて、Aチームはアラーニャとガランチャ(当初予定)、Bチームは韓国テノールヨン様とクリスティーナ・ライス。結局ガランチャが出産のためにキャンセルして、Aチームのカルメン役はAnita Rachvelishviliとアントナッチの二人となり、出演歌手の優劣の差が縮まりました。
これまでにAチームは12月16日の初日と22日、Bチームは12月23日に観て、来年もう一回アントナッチで観るのですが、とりあえずこれまでの顔ぶれで2チームの比較をしておきます。脇役まで含めると明らかにAチームのぶっちぎり勝利というわけでもなく、なかなか興味深い結果となり、両方に行けてよかったと思います。
初日の様子はその日のうちにちょっとレポートしておきましたので、そちらの写真もご覧下さい(→こちら )。
カルメンってどんなお話なの?と仰る方は以前の記事をご参照下さいですが(→こちら )、一言で言うと、奔放なジプシー女カルメンに惚れて人生を棒に振るアホ男の話ですが、嫉妬に狂ってストーカーになり、挙句の果てはカルメンを殺してしまうマザコンの元兵士ドンホセはオペラ界サイテー男です。
まず、チームごとに写真を並べてみましょう。
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Bチーム
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カルメン (Aチームのカルメンには誰も勝てません)
グルジア人のアニータ・ラクヴェリシュヴィリ(って読むのかしら?Rachvelishviliって)は無名だけど、最近あちこちの大劇場のカルメン役で絶賛されてる人なので期待はしてたのですが、あまりの上手さに驚きました。艶のある野太い低音がは私にとっては理想的なカルメン声で迫力満点。いくら立ってるだけで容姿もカルメンにぴったりとは言っても、やっぱりもうちょっと頑張って演じればもっと良くなるのに、と不満もありますが、こんな素晴らしいカルメンを聴けて感激なので、キャンセルしたガランチャに感謝したいくらい。
クリスティン・ライスは知的な歌唱と手堅い演技で安定してるイギリス人メゾのトップの一人で、今回もどの場面もたとえ他人が歌ってても一秒たりとも手を抜くことなく完璧に絵になってて感心しました。でも、オックスフォード大学卒の知性がどうしても滲み出てしまう上に声が軽すぎる彼女にはカルメンには向かないし、特に低音が弱いので、今回は歌唱面ではアニータ嬢に惨敗。私はライスの声が好きだし、何度か聴いたオペラの中で一番良かったのは軽やかなチェネレントラと知性溢れるミノタウロスなので、もっと自分に合った役で活躍してもらいです。
というわけで、歌唱面ではアニータ嬢の圧勝、演技面ではライスの圧勝ですが、オペラはやはり歌が重要なので総合的にはアニータ嬢の勝ち。
ドンホセ (余裕と貫禄でAチームの勝ち)
駄目男を演じたら上手いアラーニャ、さすがにかつてのような甘い声は出ませんが、ドンホセはまさに当たり役で、この役ならまだまだいけます。何度も聴いたので新鮮味はない筈なのに大熱演につい引き込まれてしまいました。今回のカルメンは先回のガランチャほど芝居に気合が入ってなかったので演技的にはアラーニャが一人で空回りしてるように見えてしまったのが残念。
オペラ界のヨン様は、今年3月にトスカ(→ こちら )でROH初登場した時はえらく硬くて大声で吼えてるだけって印象でしたが、今回はうんと余裕で、声もまっすぐに気持ち良いほど伸びました。細かい所は慣れてる上にフランス語もネイティブなアラーニャに遠く及びませんが、声量はヨン様の勝ちで、特に特徴はないくてもこれだけ逞しい声が出るテノールは貴重。いっそ、ワーグナーに挑戦すればいいかも。東洋人にしては長身だし、顔も悪くないので見劣りしないのも強み。
ドンホセはキャラ作りが結構難しいかもしれなくて、今まで歌は上手いけどマルセロ・アルバレスやヨナス・カウフマンみたいに分別あり過ぎに見えたテノール達と比べるとアラーニャは頭に血が上った情熱的過ぎるラテン男というドンホセのあるべき姿にどんぴしゃ。で、ヨン様はというと、ルックスだけじゃなくなんか気持ち悪い演技だったので「変質者」に見えてしまいました。それはそれでドンホセらしいと言えるけど。
面白かったのは、最後の場面のドンホセの白シャツのボロさ具合で、写真でおわかりのように、アラーニャはこざっぱりしてるのに、ヨン様のはボロボロでズボンから出ててまるで浮浪者。誰が決めるんでしょうね?
ということで、やっぱり貫禄と細やかな演技の上手さで、予想通り軍配はアラーニャに。
ミカエラ (声の好みの問題でBチームの勝ち)
私は何度聴いてもヴェロニカ・カンジェミの良さがわからなくて、声量もないし声にも魅力を感じられません。清純で可憐な雰囲気は出てるし歌もきっちりしてはいるけど、やっぱりよく歌ってるバロックの方が向いてるし、特に今回は声量たっぷりのカルメンとの共演で随分割り食っちゃってお気の毒。
サラ・フォックスはイギリス人なのでよく聴く機会があり、とても上手と思う時もあるけど、この役はベストとは言えず、声量もいつもより乏しかった。でも、カンジェミよりはフォックスの声が好きだから、僅差でBチームの勝ちとしましょう。
闘牛士 (雲泥の差でBチームの勝ち)
ヴィート・プリアンテはバロックとか歌うバリトンだそうで、なんでそんな人がここに出てくるの? 声が全くお粗末で、容貌も演技も地味過ぎていいとこなし。Aチームのレベルを一人でうんと引き下げちゃいましたね。
反対に、元ROH若手アーチストのコスタス君は、個性的で色気のある声とぴったりきまった派手なアクションも華やかで、かっこ良い人気闘牛士ぶりでした。彼がAチームに入るべきでしたね。
以上、
カルメンとドンホセはAチームの勝ち、ミカエラと闘牛士はBチームの勝ちなんですが、大事なのは主役二人ですから、総合的にはAチームの勝ちという当然の結果になりました。でも、思ったほど差はなかったし、どちらも盛り上がりました。人気オペラなのでBチームでも売り切れてたし、連日聴いてもうんざりせず、ROHにとっても確実にお客がみこめるドル箱で、来年もう一度、カルメンだけ違うAチームを観るのが楽しみです。
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