<23rd Mar Sun>
日本からの友人のアテンドが終わり、私も観光客になった気分でロンドンのあちこちを回れて楽しい3日間でした。そのことは又あらためて書きますが、まず書き掛けだった連隊の娘を完成させてから。
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連隊の娘は、全部で5回観て、2月28日のリハーサルと3月19日のフローレスの出ない日のことはすでに書いたのですが(→こちら と→こちら )、肝心のフローレス王子様の出た日のことも簡単にまとめておきます。2月28日、3月3日、9日、12日で、写真は4回分混じってます(以下の写真はクリックで拡大)。
Director Laurent Pelly
一体、これ以前にフローレスの出た連隊の娘を私はROHで生で何回観たのか勘定してみたら、2007年のプレミエで3回、2010年の初リバイバルで5回でした(いずれも共演はナタリー・デセイ)。
今回も入れると12回にもなり(フローレス以外のも入れると16回)、このオペラ以外にコンサートも含めたら、生で聴いてる有名テノールの中では彼がおそらく一番多いに違いなくて、特に例のハイC連発メザミアリアは、ほぼ毎回コンサートでもサビだけ歌ってくれてるし、このアリアだけに限ったら、軽く20回は越すでしょう。特に大ファンではなくても、とても恵まれていると感謝してます。
今回も絶好調のフローレス節を聴かせてくれましたが、やはり徐々に声が変わってきてるのはたしかで、以前の甘さが減り、輪郭がはっきりしてきて鋼のような強い芯のある声にシフトしています。私はどちかかと言うと甘い頃のフローレスの方が好きですが・・。
そして、強くなった声を生かそうと他の役にも意欲が沸いてきたようで、2年後にウェルテルをやるんだそうです(→こちら )。
へえ、ついに声質が全く異なるので違うカテゴリーでの超人気男のヨナス・カウフマンと同じ役で対決するのか・・・。重くて暗いカウフマンと軽くて明るいフローレスのウェルテル比べも面白いとは勿論思うし、新境地開拓に挑むフローレス王子の勇気には拍手を送りますが、正直なところ、あまり嬉しくないかも・・・。2008年にドレスデンに彼のリゴレットを聴いたときに感じたのですが(→こちら )、やはりは彼には他の追随を許さない軽やかな声転がしをいつまでもやって欲しいです。それを活かせるオペラがまだ他にたくさんあると思うのですけどね・・。第一、カウフマンにはできないコメディ演技だってあんなに上手なのに。
じゃあ、こうしましょう
他のオペラハウスではウェルテルでもなんでもやってみてカウフマンに勝負を挑み、重い役ばかりやっても声に負担が掛かるでしょうから、たまに息抜きにロンドンでお手の物のロッシーニやドニゼッティで休憩して頂くってのはいかがでしょう? 他ではにやったことあってもコベントガーデンではまだ歌ってないのもあるので、そういうのでお願いします。 オリー伯爵とか。
パトリツィア・チョーフィは、2年前の2回目のリバイバルでマリー役でしたが(トニオはコリン・リー→こちら
)、その時は、「あ~あ、何も丸っきりナタリーと同じにしなくてもいいのに。このおてんば娘キャラでナタリーに勝てる筈ないんだから、彼女なりのおしとやかなマリー像を作り上げた方がいいのでないの?」、と必死で頑張るチョーフィをけなげにとは思いながらも痛々しい思いでした。
で、今回再び何も変わらないナタリー版での挑戦ですが、何度も観て慣れたせいだけではなく、演技がかなり板に付いてきたし、本人も楽しんでるようでなかなかの出来でした。特にリハーサルの後半は代役マリーだったので、演技面でチョーフィがいかに上手かよくわかり、ナタリーの名人芸表情にはまだ及びませんが、かなりそれに迫るところまで達したと思います。
但し、それは演技面でのことで、チョーフィーの声がこの役には全く不向きであることには変わりません。彼女を知らない人の何人かが言った「彼女、今日風邪ひいてるんだよね?」と思われてしまうかすれ気味の優しい声は、私は決して嫌いではないし、テクニックでなんとかなってますが、やっぱりもっと合う役があるだろうから、この役はもうやめた方がいいのではないでしょうかね?
2009年のセヴィリアの理髪師のフィガロは抜群に歌も上手で面白かったので(→こちら )、今回も期待は高かったのですが、主役ではないので大袈裟な演技はしなかったけど、それでも表情や間の取りかたの上手いこと
そしてなによりも、バリトンにしては細めでクリアな美声が魅力的で、高い声も出そうだし、バリトンにしておくには勿体ないスパニューリ、テノール役に挑戦してくれないかしら。結構年食ってるし、今回は腹ボテ衣装にハゲかつらだったけど、とてもチャーミングだったから、二枚目役もまだできるんではないの?
さて、
今回の目玉の一つがキリ・テ・カナワの登場で、これまでこの役は台詞だけで歌がなかったんですが、プッチーニのエドガーからほんのちょっとだけ歌ってくれました。昔は歌うスタイルもあったらしいですが、ROHのこのプロダクションでは初めての試みで、ふた昔の花形ソプラノの(衰えたとは言え)歌が聴けたのは今回のボーナスでしょう(私は目撃できませんでしたが、70歳のお誕生日のパフォーマンスは舞台でお祝いもありました)。
キリ女史のコメディ演技は、プレミエから2回のドーン・フレンチ(イギリスでは有名なコメディアン)と比べたら全然面白くないのですが、それでも、回を重ねるごとにリラックスしてきたのか、段々大胆に演技できるようになり、最後は「あら、なかなか面白いじゃないの」、と思わせるくらいまで上達したのはさすが。
逆に、コメディセンスがこれまでのこの役の中では一番光ってたのがマリーの母親役のイーワ・ポドルズEwa Podles。
ユーモラスなおデブさん体型を最大限に利用して身のこなしも表情も見事なコメディエンヌぶり。この役はこれまで、フェリシティ・パーマー、アン・マレーというイギリスでかつてトップ・メゾソプラノで今も充分歌えるおばさん二人だったんですが、今回のEwaおばさん、全く名前を聞いたこともない人だけど、ドスの利いた低音が迫力で、歌でも決してひけを取ってませんでした。
指揮者のイヴ・アベルの軽やかで始終嬉しくてたまらないという表情の指揮振りは彼がよく見える席の私にはビジュアル的にもさらにこの喜劇オペラを楽しくさせてくれました。
というわけで、何度も観てるけど、やっぱり面白い連隊の娘に又笑わせてもたいました。特に今回はちょっとだけだったけど主役二人を無名の代役で観られたのも嬉しかったし、これと交互にやってるオペラがシリアスで難解なリヒャルト・シュトラウスの「影のない女」だったのも極端に対照的で、「いやーっ、オペラって色々あって楽しいわん!」、と思えて興味深いことでした。
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