<20th November (Sun)>
ブログのタイトルから旧オペラ三昧イン・ロンドンを削除しました。6年もお世話になって愛着ありますが、いざさらば 霧の日曜日、午後から郊外のパブの2階で行なわれるオペラを観に行ってきます。
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たくさん溜まってるオペラ鑑賞記録を手短に写真中心で順不同で追々アップしていくつもりですが、10月の分から溜まってるのを差し置いて、まずは11月7日にマドリッドのテアトロ・レアルで観たオペラから片付けましょう。
劇場の様子は→こちら をご覧下さいなのですが、ROHより少しこぶりで素敵なオペラハウスでした。
オペラ鑑賞のためにマドリッドに行ったわけではないのですが、旅行の準備としてまず9月中旬に何よりも先にしたのがオペラ切符の確保。スペイン語のわかる友人の助けを借りて一般販売初日にネットで値段の割に良い席をゲットできたのは幸いでした。
上演演目が少ないので選択の余地はなかったのですが、まあ目的は観光の一環としてテアトロ・レアルを見学するのが目的だからとりあえず何でもいいや。で、あら歌手陣がまあまあのやってるからこれにしとこ、という程度の気持ちだったし、特にこのオペラが好きなわけではないばかりか、なんせドビュッシーですから叙情的と言えば聞こえはいいけど、字幕も理解できないし、きっと退屈で寝てしまうだろうなあ・・と思ってたんです。
でも、意外なことに、旅の疲れもある筈の上に前日はほとんど眠れなかったというのに全く睡魔にも教われず、それどころか座るとよく見えない実質的な立見席でほとんど立ってでも頑張って観ようという気になったほど素晴らしいプロダクションとパフォーマンスでした。こんなことなら、ケチらずに舞台近くの高い席を奮発すればよかった。
どんなストーリーかというと、
架空の国のゴロー王子は、森で迷ったときに出会った得体の知れない水の精のようなメリザンドと結婚するが、結婚指輪を失くしてしまった彼女をなじり、弟のペレアス王子と一緒に洞窟に探しに行かせる。二人は惹かれ合い、嫉妬したゴローにいちゃんが弟ペレアス君を殺し、メリザンドはお産で死亡。
というのがおおまかな筋なのですが、テーマは痴話喧嘩ではもちろんないだろうし、人間のドラマですらないかもしれなくて、「水」が主題なのかも、という観念的で象徴的なオペラ。
舞台と衣装
オペラ自体は何度か聴いてるものの、プロダクションについて調べる時間がなく白紙の状態で臨んだのですが、全く古い感じはしなかったので最近のものかと思ったら、なんと1997年からあったとは。ちょっと前にパリからマドリッドに転任したジェラール・モルティエ氏がザルツブルグ音楽監督時代のプロダクションですが、パリ時代にも上演されたし、よほど気に入っているのでしょう、今回マドリッドに持ってきたようです。
ミニマリズムで有名な演出家ロバート・ウィルソンと言えば、ROHでは2004年のアイーダが真っ白でアクションもなく退屈極まりない駄作として今でも語り草になっているほどで、私は切符を持っていたのだけれどあまりに評判が悪かったのとろくな歌手が出てなかったので(あまりのひどさにボロディナが降りたので)結局行かず、次回ましな歌手が出たら行こうと思っていたら一回でゴミ箱行きになってしまったので観ていないんです。
写真でご覧の通り、すっきりした象徴的舞台と衣装ですが、照明の変化や布の動きで水を表現するなど、なかなか凝ってるんです。歌手は顔を白塗りにして無表情、スローな太極拳のような妙な動作でほとんど一切接触もしないのですが、それがこの音楽の叙情性にぴったり合って、私はとても気に入りました
Claude Debussy
Pelléas et Mélisande
Direction: Robert Wilson
Co-direction: Giuseppe Frigeni
Sets and Lighting: Robert Wilson
Costumes: Frida Parmeggiani
Pelleas: Yann Beuron
Melisande: Camilla Tilling
Golaud: Laurent Naouri
Arkel: Franz-Josef Selig
Genevieve: Hillary Summers
Yniold: soloist from the Tölz Boys’ Choir
Doctor: Jean-Luc Ballestra
パフォーマンス
ペレアス役はリリック・バリトンでもテノールでもよいらしいのですが、私が今まで聴いたのはいつもバリトンのサイモン・キーンリーサイドでした。サイモンはいつも文句なく上手なんですが、これはテノールの方が向いてるんじゃないかなと思っていたところ、今回はじめて、しかも私が結構好きなヤン・ブーロンで聴けてラッキー。細かい技術面はサイモンの方が上だと誰でも思うでしょうが、一本調子気味ではあってもブーロンのリリカルな美声がペレアスにどんぴしゃで、高音で苦労することもないわけだし、ネイティブなフランス語も美しくて、ずっとうっとり聞惚れました
メリザンドはスェーデン美女のカミラ・ティリング。後ろの方の席だったので時折声量がちょっと・・と思ったのですが、お馴染みのピュアでデリケートな声はこの役に相応しいし、なんと言っても美しい容貌を最大限に生かした(無表情であっても)真心のこもった演技は素晴らしいもので、これまでこの役で聴いたキルヒシュラーガーとナタリー・デセイに比べても総合点ではひけをとりません
声量で問題ないのはゴロー兄ちゃん役のローラン・ナウリ。半年前にデセイと夫婦共演したバービカンでのコンサート・パフォーマンス(→こちら
)でもこの役で凄い迫力だったナウリですから悪かろう筈はなく、素晴らしい悪役ぶり
それにしても、この素晴らしいプロダクション、ROHにも貸し出してくれないかなあ。
だって、ROHで2007年にやった新プロダクション(→こちら )は、まるでテレタビー(子供番組)のような陳腐なぶち壊し衣装だったんですもの。そして、当然でしょうが、これも一回でお釈迦になったらしく(やれやれ)、ちょっと前にROHの衣装セールで始末された筈なので(誰が買ったんだろうか、あんなものを?)