<4th March Sun>
冷たい雨の日曜日。また冬が舞い戻ってくるのでしょうか? せっかく花も咲いて春になったのに。
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3月2日、バービカンのエフゲニー・キーシンのピアノ・リサイタルに行きました。
一年以上も前に切符を買ったのですが(横顔と両手が見えるベストな席)、今シーズンからバービカンのGreat Performersシリーズの切符の値段が一気に約2.5倍になるという暴挙。バービカンも苦しいでしょうから仕方ないのですが、今回払った85ポンドというのは、ロンドンではこれまではベルリン・フィルとウィーン・フィルだけの破格別価格で、さすがのキーシンも急にこんなに上がっては切符の売れ行きがとても悪く、直前までかなり残ってました。
結局は、さすがに、というか割引疑惑も起こるほど急激に売れたようで、おまけにいつのまにか舞台上の席が30ポンドで発売されてたりしてましたが、バービカンも今回は心配したでしょうから反省して次回から値段を下げればいいのに、先月発売になった来シーズンも同じ値段。次のキーシンは11月20日(→こちら )ですが、大ファンの私ですら少し躊躇したくらいですから、もちろんまだたくさん残ってます。
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Evgeny Kissin piano
Beethoven Sonata No 14 Op 27 No 2 'Moonlight Sonata'
Barber Sonata Op 26
Chopin Nocturne As-Dur Op 32 No 2
Chopin Sonata Op 58, No 3
・アンコール
ショパンのマズルカ
ベートーベンの6tつの変奏曲
プロコフィエフのオペラ「3つのオレンジへの愛」のマーチ
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で、今夜はどうだったかというと、今までキーシンを一度も聴いたことがなくて今回聴いてみて来年もそれだけ出してでも行く価値があるかどうか判断しようと思ってらっしゃる方がいるとすると、「なんだ、天才キーシンってこの程度か」という感想になってしまったかもしれません。
そうなんです。私は毎回欠かさずかぶりつき席で聴いてきましたが、今回は彼のベストとはとても言えず、一年前のリスト生誕2百年のリスト尽くし(→こちら )が素晴らしかったのに比べると、全体として精彩がなく盛り上がりに欠けたと言わざるをえません
いつも出だしは良くなくてエンジンが掛かるまでに最低数分掛かるキーシンですが、最初のベートーベンの月光ソナタは最後までひどくて、有名な静かな部分はごつごつで、次の早い分は適当にすっ飛ばすというキーシンにしては信じ難い演奏で、前から3列目の斜め後ろの席の私には体中に力が入り過ぎて苦しんでいる姿が見えるのも手伝って、「あー、駄目だ、こりゃ調子悪いかも」とがっかり。85ポンドも奮発したのにさ・・
一緒に行った音大ピアノ科卒の辛口の友人によると、「こんな簡単(キーシンにとっては)な曲なのに、練習不足!」とばっさりでしたが、たしかにそうだったかもしれません。だって、次のバーバーのソナタは今夜のハイライトとも言える曲なのでベートーベンの代わりにこっちばかり練習したに違いないと思うほどの渾身の演奏で、こういうガンガン系はキーシンの最も得意とするところでもあり、まるでキーシンのために作られたかのような曲をこれだけ弾ける人は他にはまずいないでしょう。
でも、前衛的で聴いてて楽しい曲では全くないし、それに、うーん、やっぱり今日は調子悪いのかもしれなくて、ちょっと流れが悪い部分もあり、絶好調の彼ならもっと正確で凄い迫力に違いないですもん。
後半のショパンはまあまあの出来で、最後のソナタは華麗で彼らしい左手の力強さも生きて、好きな曲でもあり私は一番楽しめましたが、ミスを滅多に犯さないことがキーシンの優れている点のひとつなのに、全体に今までで一番ミスが多かったので、やっぱりどこか悪かったのではないかしら? 去年よりちょっと痩せて顔色も青白くて元気なかったし、うめき声も苦しそうだった。
もちろん、多少不調でも並みのピアニストに比べればぶっちぎりの実力を持つキーシンなので、やんやの喝采を浴びてましたが、Key神たる神技を聴くことができなくて私は不満だったし、彼のためにも残念でなりません。
そのことは彼自身が一番よくわかっているらしく、拍手に応える表情も、はにかんでいるというよりも、困惑気味に見えました。「ほんとうは僕もっと上手に弾けるのに残念だし、こんな演奏でもこれだけ騒いでもらえるのは、きっと僕のブランド価値なんだろうな」、とプレッシャーを感じていたに違いありません
たしかに、天才キーシンだから素晴らしいに違いと思って聴くと実際に素晴らしく聴こえるでしょうし、それはそれで良いことなのですが、もし覆面ピアニストとして聴いたら、果たして皆さんどう思ったでしょうか? 私だったら、「たしかに凄く上手だけど、これだったら他にもいるトップクラスのうちの一人に過ぎないわ」、と思うでしょう。
天才キーシンだって人間だから今までも不調の時もあり(特に→こちら
)、それは当たり前で、だからこそ素晴らしい生演奏に出会えた時の感動がなにものにも変え難いわけですが、この日は彼も気分が乗らなかったのでしょう、アンコールの多さは彼の調子と比例してるらしい彼としてはアンコールもあっさりした3曲だけで、やけに短いコンサートになってしまったことも残念でした。
秋はまたかぶりつきに行くので、その時は人間技とは思えないkey神様にまた逢えますよう・・・
尚、キーシンとかの確立された巨匠ばかり聴いてるのもつまらないので、トップクラス目指して躍進中の若いピアニストも聴いてみようと思い、とりあえず、20歳前後のBenjamin Grovesnor(→こちら
)とDaniil Trifonov(→こちら
)の切符を先日ゲットしました。サウスバンクのQueen Elibaceth Hallですが、会員以外はまもなく販売開始ですから、いかがですか?私もはじめてなんで、保証はできませんけどね。もっとも、キーシンだって不調の時もあるわけですから、誰だってその日にならないとわからないですもんね。
ついでに、ブログはじめて以来のバービカンでのキーシンのリサイタルの記事をリストアップしておきます。これ以外に協奏曲だけ聴いたことも何度かあるし、そう言えばホロとの共演などというおぞましいコンサートにも行ったり、この12年間で一体何度行ったのかしら?
もちろんこれからも、値段がどんなに上がっても、彼だけは行き続けるつもり。彼が毎月出てくれたら、他のピアニストは聴かなくてもいいと思うくらいですから。
2007年3月 ここから写真登場
2009年6月 幕間のダサい普段着姿の写真あり
2011年2月 ここから動画登場