<29th June Mon>
2週間休暇も今日で最後。あっと言う間に終わってしまったわ。フルにリタイヤしても退屈はしませんね、絶対。今月はオペラ9回、コンサート6回でそれだけで忙しかったけど、今夜ROHでロッシーニのギョーム・テル初日に行く前にドン・ジョバンニを片付けよう。今日から始まったウィンブルドン・テニスをテレビで観ながら。
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6月20日、22日、25日と1週間に3回のドン・ジョバンニ。
どんな人たちが登場するのかは以前の記事をご覧下さいです(→こちら )。女たらしの代名詞にもなってるドン・ジョバンニの周りに面白いキャラがたくさん出てきて、ダークで奥の深いモーツゥルトの傑作です。
折角お得な舞台横の席を最初から放出してくれたのだから、いつもならもっともっと回数行くのですが、今回は苦手なテノールがほとんどの日に出てるせいで、彼の出ない日を主に狙ったので3回のみ。その代わり、14ポンドの3列目じゃなくて30ポンドの2列目を奮発。 この2階建てのセット、去年のプレミエ時(→こちら )には3列目から上階がろくに見えませんでしたからね。
プロダクション
今回観たに違いないマシュー・ポレンザーニがこないだウィグモア・ホールで「今まででベストなドン・ジョバンニのプロダクションだ」、と褒めてた(→こちら )からと言うわけではないですが、プレミエの時は「四角四面の白い建物で色気も熱気もないし、映像がチカチカして邪魔。衣装は良いけど好きじゃないわ」という意見だったのが、「2階や柱やドアを利用して色んな工夫ができて娯楽性を高めてるし、状況や登場人物の心情を表す映像も変化があって努力の跡はみられる」、とちょっと見直しました。
でも、いつもホルテンはそうだけど、理屈っぽくて説明し過ぎなのが私は嫌い。物語は音楽と歌手たちのパフォーマンスで表現すべきでしょ? それにやっぱり最後のシーンは前の炎ぼおぼおのクライマックスがマッチベターです。最後のシーンと言えば、今回は最後の6人のコーラスがカットされてたので、とりわけ最後があっさりし過ぎちゃいました。このプロダクション、9月に日本公演ですがおそらく改訂版なんでしょうね。
秋の日本公演のキャストはこちらでご覧下さいですが((→こちら )、同じ歌手も多いですね。
(以下の写真はクリックで拡大します)
Music Wolfgang Amadeus Mozart
パフォーマンス
今回のドン・ジョバンニ、私がイギリスのバリトンの中で一番歌唱力があると思うクリストファー・マルトマンだったのですが、絶好調ではなかったようで、ちょっと声が乾き気味の日が多くて、歌唱面ではレポレロに食われちゃったのが残念。なんか痩せちゃったし、ちょっと心配。
でも、ハゲだけどカツラを被ればハンサムだし、ギョロ目を活かしたシャープな演技は期待通りで、プレミエのクヴィエチェンより甘さは欠けるけど、男っぽいドンジョバンニで素敵でした。レポレロと声が似てたのがナンだったけど。 これまでのドン・ジョバンニ歌手をキャラとして私の好みで順位付けてありますが(→こちら )、マルトマンもそこそこ上位に食い込みますよ。
日本公演のイルデブランド・ダルカンジェロ、この役では観たことないのですが、イギリス風にシニカルなマルトマンとは違い、深い声でイタリア男の色気たっぷりですよ、きっと。
レポレロは、最近ずっと同じでアレックス・エスポジット。先プロダクションではカツラ被って無邪気な悪戯小僧のようだったけど、今回は坊主頭のままでペーソス溢れるドンジョバンニの悪巧みを助ける家来を見事に歌い演じて、ほんと、この人のレポレロは天下一品。 嫌というほど彼のレポレロは観てるけど、サービス精神に富むエスポジットは毎回どこか演技が違うので見飽きないし、歴代のレポレロでは彼がぶっちぎりトップ。秋の日本公演、期待して下さいね。
主キャストのロランド・ヴィラゾンの声が好みではないけど、かつては素晴らしかったし、熱血演技には引き込まれたものです。でも最近の凋落ぶりは明らかで、先回のラ・ボエームは主役である彼がずば抜けて下手で見てられなかったほど(→)。今回は彼が出る日は行くのやめようかと思ったけど、そしたら2回しか行けないし、キャンセルしてくれるかもしれないからと一応一枚だけ切符は買ってありました(これだけはうんと安い席で)。
迷いながらも結局、他の人たちをもう一度聞きたかったので重い足取りで見に行ったのですが、やっぱり痛ましかったです。初日は最初は声が出なかったけど後半は持ち直したそうですが、私が行った日は最初は予想よりうんとましだったので、よかった、これなら彼まだ大丈夫かもと思ったのですが、途中でへなへなに・・・。 休憩後は幸い元通りになって、カーテンコールは大きな拍手だったけど、かつての彼を知っている人は「こんな状態でよく最後まで頑張った」という同情の拍手だったのではないかしら。秋の日本公演、このままでは足を引っ張っちゃうかな。
もう一人のドン・オッタヴィオは去年セヴィリアの理髪師(→こちら )ですごく気に入ったミケーレ・アンジェリーニなので楽しみにしてましたが、期待通りの甘~い声で高音も難なくこなして、ずっと聞き惚れっぱなし。2回だけなのが残念だわ。
ヴィラゾンの大袈裟な熱い演技(私には暑苦し過ぎる)とは対照的な控え目演技で物足りないと思う人もいたでしょうけど、ドン・オッタヴィオは影が薄くてもいいし、でも聞かせどころの良いアリアがある得な役なので、歌唱力でだけ勝負。
ますますファンになったミケーレ君、カーテンコールの拍手も同情混じりのヴィラゾンとは違い、「お、無名だけど爽やかで良いテノールじゃないか」、という感じでしたよ。秋にはフローレス王子の代わりに一回だけ「オフフェとユーリディーチェ」に出るので楽しみ。
マゼット役のディ・ピエロ君は、面白みのないつまらないキャラになってて退屈そのもの。この役はどっか愛嬌がないといけないし、ここからレポレロ→ドン・ジョバンニと昇格していくのに、キャラが重要なこの路線は彼では無理。でも、歌は下手じゃないのでもっとシリアスな普通の役ではオッケーでしょう。
以上、男性陣は難ありの人もいましたが、今回は女性群の圧勝
中でも、圧倒的な声の迫力で素晴らしかったのはドンナ・アンナのアルビナ・シャギムラトヴァ。2年前の「魔笛」で光ってた夜の女王ですが(→こちら )、艶のある美声は絶品で、もし全回行けと言われても彼女が出るなら喜んで行ったでしょう。
これからも貴女が歌うなら何度でも聴きに行きますが、でもお願いだから体重落としてね。折角の愛らしい顔立ちが二重アゴで台無しで、折角の素敵なドレスも良さが発揮できません。 どんなに努力してもルックス面では先回のオペラ界のバービー人形ことマリン・ビストロムには敵わないでしょうけど、この歌唱力ですから、普通の体型だったら世界中から引く手数多でしょう。秋の日本でも皆さん魅了されますよ!
知名度の一番高いのはドンナ・エルヴィラのドロテア・レシュマン。今までに結構聴いてますが、彼女は好不調の波が激しいようで、良いときは細い高音が素晴らしいのですが、下手をすると不快な金切り声に。
幸い、今回は絶好調で、声量はアルビナ嬢に劣るけど、細かいニュアンスは彼女の勝ちで、余裕の演技もさすが。一番歌唱力が必要なこの役、日本ではジョイス・ディドナートですから問題ないですね。
村娘ツェルリーナはROHデビューのユリア・レジネヴァ。バービカンで3回聴いたことがある大好きなユリアちゃん(→こちら )、厚味のある中低音の素晴らしさで、彼女が誰だか知らなくても、「個性的な声で良いわ」、と思ったでしょう。でも、この役では彼女の持ち味である上手に転がるコロラチューラを発揮できないのが歯がゆくて・・。
演技もチャーミングな小柄であどけないユリアちゃん、ロンドンで歌の勉強をしたした彼女にとってこのROHデビューは記念すべきでしょうが、いつかヴィヴァルディかヘンデルをROHでやって皆の度肝を抜いて欲しいわ。
ということで、歌唱賞は男性はレポレロのエスポジート、女性はドンナ・アンナのアルビナ・シャギムラトヴァに。