1週間前に行ったグラインドボーンのことを色んな角度(着物→こちら 、ピクニック→こちら 、レストラン→こちら 、切符→こちら 、イエスティン君→こちら )から毎日書いてきましたが、この最終回はやっと本題とも言えるオペラと歌手についての感想です。(最終回の後に番外編が続きますが)
ヘンデルの「サウル」は、旧約聖書に出てくる二人のイスラエル王のお話で、老いたサウル王がのし上がって来てやがてダビデ王になる青年に嫉妬してあれこれ意地悪するという、わかりやすくて共感できるストーリーとヘンデルらしい軽やかで典雅な音楽が素晴らしい英語オラトリオです。
セットと衣装
目的はイエスティン君であり、他のことは二の次と言うよりどうでも良いのですが、レビューで褒めちぎらたこの新プロダクションは美しくて楽しくて最高。
ホガースを思わせるヘンデルの時代を基本スタイルとする衣装は、現代服の人とも上手く溶け込んで、幕が開いたときのお花畑のようなカラフルで洒落たセッティングには「オ~っ」、と客席がどよめきました。数人のダンサーたちのコミカルなダンスは笑えたし、ワクワクさせてもらえて娯楽性抜群。
後半は打って変わってダークになりましたが、舞台一面のキャンドルがこれまた美しくて溜息もの。グロテスクな場面もありましたが、それですらユーモアあって面白かったです。以下の舞台写真はクリックで拡大しますのでご覧下さい。 尚、イエスティン君だけが白塗りメイクじゃなくてヘアスタイルも素のままなのは、ダビデが外国人だからなんだよとイエスティン君が言ってました。なるほど。
以下、ちょっと話が反れて、違うプロダクションの写真が出て来ますが、
のカストールとポリュックス(→こちら )と同じ人で、その時は全裸の男性たちが長い間ぶらぶら徘徊したり、女性達が何十枚も重ねて履いてるパンツを脱ぎまくったりという下品なエログロで大ヒンシュクでした
右と下の写真はそのENOのプロダクションですが、よかった、今回はそんなんじゃなくて。
でも、よく見ると、床は一面火山灰のような黒い大きな砂で、中から人の頭や手が出てくるのは同じアイデアだわ。
そう言えば、こないだのROHのギヨーム・テルも同じような素材の床(ゴムの一種でしょう)でした。新しいものを取り入れるのは結構だけど、動きにくいし音も吸収されてしまうかもしれないので歌手は嫌でしょうけどね。
Conductor Ivor Bolton
Director Barrie Kosky
Designer Katrin Lea Tag
Choreographer Otto Pichler
Lighting Designer Joachim Klein
Assistant to the Choreographer Silvano Marraffa
Saul Christopher Purves
Henry Waddington (6, 12, 15 August)
David Iestyn Davies
Merab Lucy Crowe
Michal Sophie Bevan
Jonathan Paul Appleby
High Priest Benjamin Hulett
Witch of Endor John Graham-Hall
Orchestra of the Age of Enlightenment
The Glyndebourne Chorus
パフォーマンス
ダビデ役のイエスティン・ディヴィスについては既に書いた通り、この日は絶好調とは言えなくてちょっと失望でしたが(→こちら )、他の人たちはどうだったかと言うと、
タイトルロールのクリストファー・パーヴスはイギリスではお馴染みでROHやENOによく出ますが、歌唱的にはこの程度の人はたくさんいる中で、現代オペラWritten on Skinで抜擢されたラッキーなバリトン。その成功で自信をつけたか、歌は少ないけど、嫉妬に苛まれるサウル老王の哀しさを上手く演じて存在感ありました。
サウルの息子ジョナサン役のテノールはアメリカ人のポール・アップルビーでレビューでは褒められてたので期待したんですが、不調だったのでしょうか、全くどうってことなくてがっかり。もっと上手な人いくらでもいるでしょ? 来年春にウィグモア・ホールでリサイタルやるんだそうですが、これでは特に聴きたいとも思えなくて・・。
サウルの娘二人はルーシー・クロウとソフィ・ビーヴァンというイギリスの二大若手ソプラノが揃ってなかなか贅沢なキャスティング。二人とも何度も聴いたことがあり、どちらかと言うとソフィーの方が好きだけど、この日は二人とも期待通りの出来で互角だったかな。ソフィーは例のパンツ脱ぐやつにも出てたけど、よかったね、今度はクラシックで美しいドレス着られて。
脇役も豪華で、不気味な魔女役がなんとジョン・グレアム・ホールで、すらっと長身の彼は年食っても魅力的なテノールの大ベテランです
大袈裟に垂れたオッパイから母乳を絞って出す場面は例のENOパンツオペラに匹敵するグロテスクさで、まあそれ故印象に残るわけですが、彼も帰りのシャトルバスに乗ってたのかな? 近くで拝みたかった。
もっと脇役だけど光ってたのが、高僧役のベンジャミン・ヒューレットで、ピエロのような格好の狂言回しなんだけど、リリカルな声がすっかり気に入ったイギリス人テノール君。これでは素顔がわからないけど、去年ROHのマノン・レスコー(カウフマンとオポライス)にちょい役で出てて上手でした。
このプロダクションの秋のドサ回り公演にも行くかどうか迷ってたんですが、ベンジャミン君がサウルの息子ジョナサン役で出ると知って、遠いけど行くことに決定。しかもフランコ・ファジョーリを蹴ってまで(口惜しいけど)。
ここまでグラインドボーン漬けになってる今、番外編としてドサ回り公演のことは別に書きますね。なにかのお役に立てるかもしれないし。
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