<25th Feb Mon>
毎年、オスカー授賞式になると、イギリスでは真夜中から明け方になってしまうテレビ生中継を見られる身分に早くなりたいものだと思うのですが、今年もやっぱり駄目でした。でも、そろそろ、なんとかしたいものです。実は来年こそはと目論んでいますが、番組をより楽しむためにもまず候補作品を観に行く時間を作りないと・・・、と考えると焦ります
オペラやコンサート、ムスメの作品等、書きたいことが山ほど溜まっている中から、これだけは外せないオネーギンを週末に準備しときました。
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2月4日(初日)、14日、16日と3回、新プロダクションのオネーギンを観ました。
まず、オネーギンってどんな話なの?という方は、以前の記事でご覧下さいですが(→こちら
)、要するに、
本ばかり読んで恋に恋する田舎娘タチアナが、目の前に現れた伊達男オネーギンを「彼こそ私がずっと待ってた男性」と思い込んで熱烈なラブレターを送るが、ニヒルなオネーギンは「俺は結婚するタイプじゃないし、第一、そんなに素直に吐露するもんじゃないよ」、とお説教する始末。数年後、洗練された上流階級夫人となったタチアナに再会したオネーギンは、今度は彼がお熱になって言い寄るが、一時はぐらついたタチアナもは結局はオネーギンを退ける
という、タイミングが合わなくて一緒に幸せになれなかったすれ違いカップルのお話。
プロダクション
ROHのオペラ監督カスパー・ホルテンが就任以来はじめて演出するオペラですが、前プロダクションもまだ充分新しいのに、この作品に大いに思い入れがあるらしいホルテンのごり押しで新プロダクションを作ったに違いないですね。彼のROHの地位を考えたら、失敗したら笑いものになって立場も悪くなるでしょうからプレッシャーだったと思いますが、結局、批評は散々
でも、失敗を怖れずに新コンセプトを貫いたホルテンの勇気は褒めてあげたいし、私は3回観たのですが、その度に違う印象を持ったという珍しい体験もして、それなりに色々考えさせられて興味深いプロダクションです。
一番の特徴は、オネーギンとタチアナの二人には歌手とは別にそれぞれ若いバージョンの分身ダブルという設定の俳優が登場し、歌ってる自分たちは結末を知りつつ、「ああ、あの時にああすれば、結ばれたかもしれなかったのに・・・」という後悔と回想の形を取っていること。
まず、初日に観たときは白紙状態だったので、「なんなのよ、これ! 4人も出てきて混乱するじゃないの。懲り過ぎだわ。それに、若い二人が出てきたら、余計に中年主役歌手が老けてみえるわ」、と怒りすら感じました
でも、批評とか読んでコンセプトを理解してから観た2度目は、「そうよね、すれ違ってしまったけど、二人が幸せになれたという仮定場面を実際に見せてもらえると、二人に対して共感感じるわ。これまでと違う見方をさせてもらって感謝かも」、と思いました
そして3回目は、「やっぱりこれはひねくれ過ぎで、チャイコの美しい音楽を堪能するには素直な演出がベストだし、理想的な舞台を想像するのはオペラの観客にとって楽しみでもあるわけだから(そうしないとわけのわからないヘンテコな演出が多いので)、その余地を与えないこの演出は観客の知性と想像力を侮辱してるのではないか」、と再び批判的になりました
そして、3回とも許せなかったのは、レンスキーの聴かせどころのアリア「クーダ、クーダ」で、これは決闘にオネーギンがなかなか来ないので待ってる場面なんですが、決闘の結果を知ってて後悔してる未来の中年オネーギンがうろうろしてたこと。レンスキーが主役なんだから素直に一人だけで思う存分注目浴びさせるべきなのに、憂い顔で後ろから「ごめんな」、と言わんばかりに抱きついたりして、邪魔くさいったら 手紙を書くのはヤング版タチアナ、決闘するのもヤング版オネーギンというのはまだ我慢できるけど、この場面だけは嫌だ。
尚、ビジュアル面では、場面に相応しい映像がプロジェクトされたようですが、私の安い横の席からはアーチが邪魔になって後ろがほとんど見えなかったのでその点はコメントできません。農民の集まりや上流階級の舞踏会という場面はほとんど後ろばかりでやってたので、私には変化のないつまらない舞台にしか見えなかったけど、全体が見えればまた違う印象なんでしょう。
ちょっと前にENOでやったオネーギンは当たり前過ぎて面白みに欠けたけど美しい音楽を引き立てて気に入りましたが(→こちら
)、これはやっぱりひねくり回し過ぎた失敗作でしょう。私の席からはそんなに聞えませんでしたが、プロダクションチームはカーテンコールで当然ブーイングようです。来月ベルリンに観るローエングリンもたしかホルテン演出なので、今から不安・・・
Director Kasper Holten
Composer Pyotr Il'yich Tchaikovsky
Set designs Mia Stensgaard
Costume designs Katrina Lindsay
Lighting design Wolfgang Göbbel
Video design Leo Warner
Animation Lawrence Watson
Conductor Robin Ticciati
Tatyana Krassimira Stoyanova
Eugene Onegin Simon Keenlyside
Olga Elena Maximova
Lensky Pavol Breslik
Prince Gremin Peter Rose
Madame Larina Diana Montague
Filipyevna Kathleen Wilkinson
Captain Michel de Souza
Monsieur Triquet Christophe Mortagne
Choreography Signe Fabricius
パフォーマンス
ほとんどの批評で、プロダクションはペケ、パフォーマンスは二重丸と書かれたように、歌のレベルはとても高くて、特筆すべきは、主役準主役だけでなく脇役に至るまで皆さん上手で足を引っ張る人が一人もいなかったこと。滅多にないですよ、そんなこと
オネーギンのサイモン・キーンリーサイドは他の役で嫌と言うほど聴いてるので私にとっては新鮮味はないですが、そりゃ上手です。特に演技力は抜群で、いわゆる大袈裟なオペラ歌手風ではなく細やかで複雑で、演技だけでも食っていけます、彼なら。なので、彼の良さを理解するために、なるべく近くで見ましょうね。年齢的にはオネーギンはちょっと苦しいですが、若く見えるしギリギリOKでしょうか?
でも、のっけから登場して、しかもすでにその時から、レンスキーは決闘で殺してしまったしタチアナには振られるしという設定でずっと憂いばっかりだったのが(演出のせいですが)単調過ぎて残念。観客とタチアナが最初に出会うオネーギンは「お、また俺に惚れてる女が現れたぜ」、というモテ男の傲慢さを出してくれなければオネーギンとは言えないでしょ。
オネーギンが登場する筈ではない場面でも彼がうろうろしてたので、サイモンのファンは喜ぶでしょうが、やっぱり変です。
ビジュアル的に全くOKではないのがタチアナ役のクラシミラ・ストヤノーヴァで、どう見てもタチアナのお母さん役が相応しいルックスだけど、このプロダクションでは若くて美しいタチアナがもう一人いて補ってくれてるので、まあ良いことにしましょう。
俳優並みのサイモンと比べては可哀相なものの、演技面で一番メリハリがないのが彼女なんですが、肝心な歌唱面では深味のある美声が素晴らしく、私ははじめてだったので新鮮でずっと聴き惚れました。でも、タチアナが彼女の良さを最も出せる役とは思えないので、他のしっとりした大人の役で是非聴いてみたいです。
テノール好きの私にとってはレンスキーは大切ですが、今回の
パヴォル・ブレスリクはビジュアル的にも申し分のない若いレンスキーで、特徴はないけれど素直な声質は大好きだし、圧倒的な声量の持ち主ではないけれど好感の持てるご贔屓のテノールの一人です
彼会いたさに出待ちもしたし(素顔のほうが素敵です
)。
1回目を右から、2回目は左から、そして切符を両側持ってた3回目をどちらから見るか迷った時(セットは左右対称で同じなので)、レンスキーがよく見える左側にしました。
しかし、レンスキーは歌う場面あまりにも少ないので、もっとちゃんとした主役でブレスリク君を堪能したいです。
生で聴いた中ではROHのコジ・ファン・トゥッテが素晴らしかったですが(ドン・ジョヴァンニは別キャストのポレンザーニに負けてたけど)、あまりにも衣装がひどいプロダクションなので、いつかハンサムな彼がさらに引き立つようなプロダクションで愛でたいものです。
妹オルガ役のエレーナ・カムシモヴァは初めて聴くメゾソプラノですが、愛らしい容貌に似つかわしくない深い立派な声が印象的なので、覚えにくい名前だけど必死で覚える価値あり。
お母さんのダイアナ・モンタギューが上手なのは充分承知ですが、乳母役のキャスリン・ウィルキンソンの凄い声量にはびっくり。
タチアナの亭主役のピーター・ローズ、ちょい役でも良いアリアのある得な役ですが、今まで脇役で巨漢でも目立たなかった彼がついに陽の目を見たわけで、これだけ歌えれば海坊主のような異様なルックスも生かして飛躍できるのでは? ロシア語のオペラの中で唯一フランス語で歌うムッシューも良かった。
指揮者のロビン・ティチアーチ君は、ROHで観るのははじめてだと思うのですが、グラインドボーンの次期音楽監督ですから、若くても実力はあるのでしょう、きっと(チリチリ頭で可愛い顔だし)。先日のバービカンでの女王様ご臨席のコンサートのエニグマ(エルガー)は上出来でしたが、今回のオネーギンの批評は様々。私は特に上手とも下手とも思いませんでしたが、楽しそうにロシア語で一緒に口ずさんでいる様子はよく見えました。
というわけで、プロダクションは★、パフォーマンスは★★★★でしたが、歌重視の私としては充分楽しめて満足
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